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あの人が見える世界 -「TAKORANTIS」という世界-

time 2018/10/09

あの人が見える世界    -「TAKORANTIS」という世界-
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ぱっと見たときには、いろんな感想が入り混じる。
「機械…?けど…なんか生き物のようでかわいい気もする…!」
網かけを用いて緻密に描き込まれながら、モノクロで独特な世界観がインパクトを与えてくる作品たち。作品が強く印象に残る理由はおそらく「機械」「緻密」「荒廃」「やさしい」という普通は融合しづらい要素が、作品内で不思議とうまく混ざり合っているからだろう。
この独特な世界観は、どのような人のどのような視点から生まれてくるのだろうか?
 
この世界観を生み出す人は

TAKORASU(タコラス)こと小出誉幸さん

TAKORASU(タコラス)こと小出誉幸さん

TAKORASU(タコラス)こと小出誉幸さん。彼の生み出す作品はすべて「TAKORANTIS(タコランティス)」という彼が想像するオリジナル世界の一部。

Takorasu steam world

Takorasu steam world

プロフィールによれば『アナログチックな機械によるファンタジー世界をコンセプトに作品を制作』とある。なるほど、確かに歯車やプロペラといったアナログな機械パーツが作品の中にたくさん描かれて、さらに白黒というコントラストがアナログな機械パーツへリアルな質感を与えている。ファンタジーと一言で言っても幅広いが、遠い遥か彼方の物語というよりは近くに存在していそうな、だけど間違いなくファンタジーという距離感。
小出さんはどのようにこの世界観を生み出したのか、尋ねてみた。

「TAKORANTISの時間軸はいつですか?」

「時代は何も考えてないですね。(笑)ただ、未来っていうとこの現実世界の延長上の未来になっちゃうんですけど、元々ファンタジーなので、その世界なりの歴史はあるけどもまだ発展途上でもあるので…。」
ここまで完成度が高い作品をつくるためには、背景となる世界感も論理的かつ緻密に練りこまれていると思っていたので、明確な答えが返ってこなかったことが意外だった。もしかしたら、この世界感は小出さんが意図的につくろうと思って、つくったわけではなく、極めて自然に出来上がったものかもしれない。小出さんの歩みと共に出来上がっていった、まさに小出さん自身なのかもしれない。話を伺ってそのように感じた。
彼の作品の多くは、好きだという「歯車」「恐竜」「怪獣」といったエッセンスを取り入れつつ、独特の視点で生み出されている。まさに彼の『好き』が存分に入っている。
作品の話をしてくれる時のキラキラした目がとても印象的だ。話を聞きながらこちらも自然と楽しくなってくる。

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ライフワークは冒頭から述べている細部まで書き込まれた網掛けによるペン画だが、そこを軸に立体・映像まで幅広く創作している。また、「オトナもハマる」として人気を博しているNHK Eテレ番組「ムジカ・ピッコリーノ」の世界観及びモンストロという怪獣デザインを2013年の第1期~2018年現在まで担当していたりと、創造力抜群のアイディアマンでもあるクリエイター。そんな彼の経歴を聞いてみた。おそらく彼の歩みの中に、作品を生み出す重要なエッセンスがたくさん入っているに違いない。

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経歴

大学の漫画研究会で同人漫画のサークルに所属し、そこで漫画に使われる技法である『網掛け(ハッチング)』を知り、作品を創る上で活用される技法のベースになっている。学生時代はバイクに乗っており、その影響からエンジンパーツなど、バイク部品がもつ機械的なイメージが作品に投影されているとのこと。他にも比較文化論でドラゴンについて研究したりなど、幼少期からの『好きなこと』が大学時代に成熟し、作品の随所に融合されている。そこから一度は機械工具の商社で営業職に就いた小出さん。ただ、2011年のアメリカ同時多発テロ後という時期もあり、提案というより売掛金の回収業務の方が多かったらしい。同じことを繰り返す日々には面白さを見出せず「自分でつくれるといいなぁ」という思いから仕事を辞め、デザイン専門学校に入学。商社マンから専門学校生への転身である。
専門学校での分野は当初卒業後の就職を見越して、効果的な広告物を作成するために必要な知識や技法を習得するアドバタイジングというポスターデザインを選択。そこで学んだ平面構成(地と図の関係)などのバランス部分が今の絵に役立っているという。ただそのままアドバタイジングのような広告方面の仕事には進まず、卒業制作の時点でイラスト作品を制作し、ここでの創作が現在の作品に用いられている世界観の元になっているとのこと。前述した好きなものをモチーフにしているというところはこの時には既に固まっていたようだ。
商社での仕事で触れた『歯車』や『プロペラ』という要素。仕事では味気のないただの機械部品と感じた要素を、経験したことと学んだことを活かし、いかに楽しくワクワクするものに変えていくか。そこに小出さんのクリエイターとして、一人の人間としての大きな転換点をみた。

「もし自分が小人だったら」

インタビューをするにあたっての主題である「クリエイターたちはどういう視点で日常を見ることで、クリエイティブな発想が可能になっているのだろう?」という核心を、実は早々に、そして単刀直入に尋ねてしまった私。この話をしてくれている小出さんの目がさらにキラキラしている。
「なんとかの街、なんとかの王国、という名前の作品をよく作っていらっしゃるじゃないですか。ものを見て、『そこが世界だったら』『街だったら』とかっていう風に考えられることが多いですか?」
「いや、小学校とか中学校のときとか、下を見ながら歩いてたんですね。(笑)地面見ながら、『自分が小人だったら、ここがこういう感じになって面白いな、って。アリに乗れるくらいちっちゃかったら、マンホールにある図形も巨大迷路に見えるだろうな、とか。それが更にちっちゃくなっていくと、マンホールのとこにある図形、あれがひとつの世界だったら面白いだろうな、とか。それをもっと突き詰めたら、じゃあそこにも何か暮らしてるかもしれないじゃん!』っていう。」

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この説明を聞きながら思わず「ああー!!なるほど!!」と、小出さんが話している途中にも拘わらずしっかりとした感嘆の声を上げてる私。
小出さん独特の視点は「もし自分が小人だったら」のような「もしそこに命があったら」という視点。どんな作品でもそこに生息する命があることを感じさせる。たとえそこに人や動物が登場しなくても、植物という生命がある。だからこそ白黒であっても、モチーフが歯車で描かれた怪獣だとしても、その作品にはやさしさが漂うのだな、と生み出される起点から終点までの軸となるしっかりとした道が見えた気がした。

どうすれば?

発想の着眼点は分かったとしても、そこからどう広げていったらよいのか…慣れていない私にはそう簡単にイメージがつかないもの。そこで、どうしたら自分の世界観が持てるようになるのか尋ねたところ「たぶん頭の柔らかさと連想ゲームじゃないかな」という回答。
「…その連想ゲームはどうしたらできるようになりますか?」
「んー…ムリしないこと。それを見て、何かビビっとくる部分を取り上げる。〇と△と□の組み合わせでものって結構表現できるので、その表現をアレンジするだけで形って浮かび上がってくるんですよ。…感覚なものでうまく言葉で言えなくてすみません。(笑)」とくしゃっと笑う小出さん。
この取材中何度も出てきたことばは「わくわくする」というワード。
「見た人にわくわくしてほしい」「このわくわくを共有できたらいいよね」というモチベーションがあるからこそ、何かを見てもビビっとくる部分が常にあるのだろう。
自らの日常を楽しむという気持ちが、世界観を広げるためにまず大事な姿勢なのかな、とはたと自分の現状を振り返らされたりもして。
巨大な傘型のエンターテイメント空間の構想を語ってもらった時にも「私そんなこと人生で一度も考えたことなかった」という言葉が口から出ていた。
「傘は傘。骨組みと布(紙)で出来ていて、雨や日光から防いでくれる道具」という辞書的な認識しかなかった。だが彼はその解釈を飛び越えて、傘を空間と見立てること、大きくしようと思うこと、布ならスクリーンになるじゃないかと気づくこと、をやってのける。文字にすると陳腐だが、ある種辞書的な自分の認識、解釈から飛び出してみることの凄さを体感した。

ゲーム業界を目指す人にも世界観づくりを大事にしてほしい。

千葉や都内の専門学校で非常勤講師として教えることもある小出さん。
ゲーム目指す人はキャラクターしか描かないんで、世界観つくってかなきゃいけないよって言ってるんですけど、なかなか背景に興味を持ってもらえない…と少しさみしそうにこぼす。
なので、黒板に一点透視、二点透視、三点透視って描いてみせて全然違うよねって説明して描いて見せるそう。
…え?この3作をそんな短時間で描けるものなんですか!?と食い気味で質問すると
「学生さんが、時間がなくて描けませんでした。っていうのが多くて…。(苦笑)

それなら実際に描いてみせればいいかな、っていうので描いて見せてます。一日の授業でこれくらいなら描けちゃうので。」とさらっと事も無げな様子。
そこから話題は、絵を描くスピードについてへと自然に移り。
「コンセプトアートの場合だと、ラフのラフは1分もかからないですかね。」
…どうしようかな、を考えることと、そのひらめきをアウトプットする作業で1分かからない…??俗にいう「画伯」寄りの私にはイメージすらできない世界。
そんな私を前に、物は試しと目の前で描いて見せてくれる小出さん。
小出さんにかかれば、取材現場のカフェの調理場に並んでいた調味料のボトルたちも創作の素材になるのだ。
「いま後ろに調味料が並んでるので、調味料の街にしてみようかな、っていう場所からスタートしてみれば…」とまずは調味料のボトルのラインを書き始め、「ここに模様が入ってるので、じゃあこの模様の部分を街にしてみたらどうかな、って」と言いながらすいすいと紙の上を滑っていく筆ペン。1L入りの調味料(濃縮だし)のあのボトルのラベルが大陸になり、その上に街が生まれ始める。
濃縮だしの残量はラベルよりも低い位置だったので、その水面も利用して「この水の中に船が浮かんでいたらどうかなー、とか。魚がいたらどうかなー、とか。」と1つのボトルに陸地も水地も生み出す。更にボトル類が並んでいる様を描きながら、ちょっと離れた位置にあったボトルへと「ここに橋があったらどうかなー、とか」と語りながら一気に街を作り上げていく。

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ラフのラフですからこんな感じですかね、と披露されるまでの所要時間は40秒。
「コンセプトアートの場合すぐボツになるので、こういうアイディアでどれが面白いかっていう形をまずこれで作っていく。で、いいのはここからどんどん詰めていって…。ラフから仕上げまでは3段階くらい。」とのこと。
「まずは筆ペンで描いて、段階ごとにどんどん細かく描き込んでいくのでそれにあわせて段階ごとに使うペンも変わっていく」そうだ。
こんな先生が教えてくれたら私だって美術の授業好きだったかもしれないなぁ…なんて生徒さんたちを羨ましく思いつつ、プロの圧倒的な着想力、表現力にただただ感服。

9月末より新宿のオカダヤで1か月ほど企画展示を予定しています。
ご興味のある方は、ぜひ、実物をご覧になってください。

小出さんの作品

小出さんのプロダクト作品

自分の好きを知ることが大事

最後になったが、ずっと気になっていたこの「TAKORASU」という活動名の由来を尋ねてみた。
そこには小学生から変わらない彼がいた。
「小学生の頃にイニシャルを習って、イニシャルって逆に書くじゃないですか。そこでTAkayuki KOide だからTAKOが出てきて。RASUは分かんないんですけどね。恐竜とか怪獣が好きだったら、その「~~サウルス」とか、ああいう感じなんじゃないかな、と。僕は感覚が多いのではっきりとは覚えてないんですけど。(笑)」という答えが返ってきた。思いがけず出た、小出さんの幼少期の話。その中の『恐竜が好きだった』という話。小出さんの現在生み出している作品は、幼少期からのしっかりとした一本の線でつながっていたのだ。

あなただけが見えている発想の源となる世界は?

クリエイターTAKORASUの世界は「もし自分が小人だったら、と考えて観察している日常の細部」とそこに「内側にある自分の好き」を融合させたもの。というのが今回の取材を経て感じ取ったこと。

日々のなかで何か違うひらめきがほしい、ひとつこの壁を破りたい、そう思った時には。
もし自分が小人だったら?という発想の転換をしてみること。
何を取り入れるかで迷ったときには、自分の好きを大事にすること。
そうすることで、世界にまたひとつ、楽しい何かが生まれることを願って。


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