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辰巳の方角には伝法院、仲見世・木村家の隣、江戸豆おもちゃ「助六」

time 2018/04/25

辰巳の方角には伝法院、仲見世・木村家の隣、江戸豆おもちゃ「助六」
 

 

取材のこの日は灌仏会(かんぶつえ)。お釈迦様のお誕生日です。花祭りとも呼ばれるこの日、10時前だというのに、浅草寺(せんそうじ)の仲見世は人、人、人の波。
雷門から伝法院(でんぼういん)に向かって人の波をかき分け行けば、辰巳の方角に伝法院をすぐ横に見るように、江戸豆おもちゃのお店「助六(すけろく)」があります。

きちんとしたたたずまいのお店

 

 

助六の入り口にはシンプルな作りのガラス棚が据え付けられています。
奥行きは狭いものの、おもちゃの大きさに合わせて棚が細かに仕切られ、小さな細工物がきちんと鎮座しているのです。
古いお店、それも参道に面していて、観光客がひっきりなしに出入りしているにもかかわらず、ホコリをかぶった様子などみじんもありません。
 

 

間口は狭く、おもちゃを収めた棚や机が店の中央あたりまでせり出しているので人がすれ違うのがやっと。
江戸豆おもちゃは小さいほど価値が高いのだと、店主の木村さんは店奥に腰かけ、流れるようにお話ししてくださいます。ああ、本で読んだままの印象の人だ、と直感しました。
木村さんは助六で扱う江戸豆おもちゃについて本を書いています。
おもちゃのモチーフの由来や故事来歴などが簡潔に端的に書かれていて、さらに英訳つき。異国の方へのお土産にも勧めやすいというものです。

 

 

語り口は上品な江戸弁、聞けば慶応ボーイが4代続くというインテリ。
けれどそんなことをひけらかすでもなく、日本の歴史にうとい人にもわかりやすくていねいに江戸豆おもちゃの秀逸さを話してくださるのです。
撮影禁止の店内を傍若無人に撮影する観光客には流ちょうな英語で注意しますし、訪日外国人で助六のおもちゃを買った人にも、英語でていねいに由来を説明してくれます。驚くほどバイリンガルなのです。

 

 

江戸っ子の粋が形になったおもちゃたち
とにかく店のガラス棚というガラス棚には、細工物がきちんと並べられています。
ここでちょっとご紹介しましょう。これは広重猫。猫のお尻には丸に〆(しめる)の印で広重の印が入っています。
助六でもっとも古い江戸豆おもちゃです。浮世絵師・歌川広重の描いたとされる招き猫で、土鈴(どれい)なのです。

 

 

その顔立ちはどちらかというとお稲荷(いなり)様、神様のつかいであるお狐(きつね)様に似ていると思いませんか?
広重猫は手のひらサイズの小さな土鈴。振ればやさしい音がします。お尻には丸に〆文字。

広重猫は手のひらサイズの小さな土鈴。振ればやさしい音がします。お尻には丸に〆文字。

招き猫の丸い顔は、近現代になってきてからだと言います。
何よりほかの土鈴と違うのは、その構造。
一般的な土鈴は割れ目があるのですが、実はこれ、土を焼いたときに空洞の中にある空気の膨張によって割れるのを防ぐため、あらかじめ付けておくもの。それが様式化されて現在のひょうたん型の穴となったのでしょうね。

 

 

ところがこの広重猫にはその割れ目がないのです。
これが江戸の粋。小さいのだけれど、割れないようにちゃんと作っているという証しなのです。

精巧な作り、しっかりとした作りで「壊れ」や「割れ」がない。それこそが、江戸豆おもちゃを手にする人に対する最大の礼節とでも言わんばかりのようです。
小さい中に、精密さ、精巧さを盛り込む・・・・・・江戸の職人の腕前の良さをみることができます。

3回も切手になった福犬

 

 

今年は戌年。実は助六の福犬は、戦後70余年、干支が5回は完全にめぐるその中で、3回も記念年賀切手のモデルになったのです。
 

 

切手にもなった今年の福犬は、竹ざるをかぶった犬が傘を頭に載せています。これは竹かんむりに犬で「笑」、カサを重ねて重ね重ねいつもニコニコ健康に!をもじったもの。
笑う門には福来たる、の言葉になぞらえ、招福の願いが込められているのですね。
 

 

 

 

小さなものへのこだわり

 

 

贅沢禁止令が出た江戸時代。裕福な町人の暮らしを取り締まろうとしたお上のお達しに対するささやかな反骨精神を形にしたのです。
禁止令に真っ向から反抗するなどというのは無粋。小さくても精巧なおもちゃを作って、お上に口出しさせない、知恵と洒落をきかすのが江戸っ子の粋な楽しみだったのでしょう。
助六の江戸豆おもちゃのコンセプト、その1は、「粋であること」なのです。
江戸小紋がそうだったように、小さいけれど、よくよく見ると、ものすごくぜいたくな造作が凝らされている。これが助六の真骨頂なのでしょう。
 

 

アーティストではない、職人の技
助六のコンセプトその2。それは「芸術品ではないけれど、精巧なもの、かつ主人の遊び心を満たすもの」です。

 

 

「自分は手先がそれほど起用じゃないんでね、私の仕事は職人に気持ち良く私のして欲しい仕事をしてもらうこと。彼らをうまく乗せないといけない。」
店主の木村さん、もともとは大手商社の勤め人。先代は継いでくれとも言わなかったのですが、自身が42歳の時にお店の主となりました。
先代の頃からの職人さんを引き継ぎ、お店の経営をスタート。勤め人時代に築いた経営ノウハウを生かし、それまでは職人主導の品物の導入を、お店のオーダー方式に徐々に換えていったと言います。

職人は自分の腕に自信があります。それを見せたいのはとても良く分かるけれど、それは個展でやってもらい、助六には助六でしか扱わない江戸玩具を作ってもらう。
この単純な商売のルールを職人さんたちに理解してもらうにはかなりの苦労がありました。
売れるもの、それが職人の作りたい物ではなかったりするのも事実。それをうまく仕事としてやってもらうように持っていくのも「ひとたらし」、ご主人の木村さんの腕なのですね。

 

 

職人こそ財産
助六を支える職人さんは、総勢22人。手先の器用さはもちろん、言葉遊びやしゃれっ気も十分理解し、店主のオーダーに応え、造作の悪い品物は絶対に納品しない確固とした職人魂を宿している人達です。
そうした職人にスポットライトを当てたいと、記した本が。この著書の中には、助六の職人2名を紹介しています。

 

 

この人たちこそ、助六の財産です。浅草寺の仲見世で江戸の頃から続く店の心構えというか、「助六スピリット」なるものが、DNAに焼き付けられた人達でもあるのです。

ようやく自分の代の職人になった
生涯現役を貫いた先代からの最後の職人さんも天に召され、今年になって現在のご主人が見いだして育ててきた職人さんだけになりました。現在助六を支える職人は40代から80代までさまざまです。
ようやく自分の代の職人だけになった今も、ご主人の木村さんは勤め人時代に培ったビジネスセンスで、今のデフレ時代に対応しています。
変化していくもの、変えていかなくてはいけないもの、変えてはいけないものをしっかりと見極めているのです。

 

 

「粋」は変えない、ではなく、変わらない。
江戸豆おもちゃは、生きていくのにそれほど必要ではないかもしれません。生活必需品ではありませんし、遊び心というか、心の余白というか、そういったところにハマるものなのかも。

助六の江戸豆おもちゃは、健康や幸福に由来する言葉遊びから生まれたモチーフにあふれています。
たとえばタコを背負った招き猫は「オクトパス」というタイトルが。「(このおもちゃを机の上に)置くとパス」するという意味を英語の「Octopus」に掛けているのです。
タコは8つ足、猫は4つ足。5を欠くということから「合格」も掛けています。さらにタコは8本足で、末広がり。

 

 

受験期は合格を願ってプレゼントに購入する人が多いとか。
誰かの成長や健康を祈る江戸豆おもちゃの面白さや美しさは、人の心に思いやりがなければ気付かない魅力なのです。この心の余裕こそが、ぜいたくなのかもしれませんね。

「江戸趣味小玩具 仲見世 助六」店舗情報

 

 

店舗名:江戸趣味小玩具 仲見世 助六
所在地:〒111-0032
東京都台東区浅草2の3の1
営業時間:10:00〜18:00
定休日:なし
電話番号: 03-3844-0577
アクセス:浅草寺・伝法院横、仲見世
自社URL:―
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【ギフト対応】
おもちゃにはそれぞれ専用の小さな箱があります。その箱を助六の名前の入った包装紙でラッピングしてくれます。
包装紙もかわいいので、ていねいに外してしおりやブックカバーにしたくなるほど。
ビニール袋も助六の名入りなので、それを欲しがる方もいらっしゃいます。
包装はシンプルな箱包みに透明なテープ止め。過度に飾らないところがいかにも助六らしいところでもあります。
 

 

 
ここでしか手に入らないという特別感
お客様の多くは浅草のこの雑多でにぎやかな雰囲気の中、助六にしかない一点物を買う、その特別感をしっかり楽しんでいらっしゃるようです。
「どうしても欲しいけれどお店に行けない」という方に向けて地方発送も一部、代引きで行っていらっしゃるようです。
仲見世にはいくつか和のテイストのする小物やお土産屋さんがありますが、助六はそれとはまったく異なります。
江戸の趣味人はこんなにも粋だったのか、というのが一目でわかる物ばかり。

人形焼き・木村家本店は助六の母なる店
助六はいわば主人の道楽。浅草寺参拝の人に甘い物を売っていた木村家が助六の母体です。

 

 

浅草が焼け野原になった後、ヤミ市と化した仲見世通りにすぐに復興した人形焼き・木村家。その横で助六も復活。
何でも売れるヤミ市でも、職人の江戸玩具をかたくなに売り続けたのは、職人たちを喰わせ、生かすためでもあったのです。

柳に風のごとく、時流には逆らわない
ウェブサイトはありませんし、通販も行っていません。
ご主人に言わせれば、ITに疎いから。かえってお客のご迷惑になりかねない通販には手を出さないというのが信条のようです。

ただ、自分の代ではそうだけれど、と前置きした上で、次の主(あるじ)になった人がすきなようにやれば良いとしています。
今年で80を超える木村さんの体調を気遣い、ご子息がお店のサポートに回ってくれるようになりました。
お互いにはっきり口に出すわけではないのだけれど、ご子息はなんとなく、次の主人として助六の在り方をキチンと考えていらっしゃるようで。
次世代ではウェブサイトや通販があるかもしれません。それは時流に逆らわず、柳に風のごとくしなやかに対応していくのだと感じました。
お店の名前「助六」は、歌舞伎の演目からいただいたものです。
市川團十郎のお家芸である歌舞伎十八番の一つで、「粋」とは何か、どんなものが「粋」なのかを具現化し、洗練された江戸文化を伝えるものとして有名。
このお店もまさにそれが原点。

 

 

扱う江戸豆おもちゃはすべてしゃれがきいていて、クスッと笑える言葉遊びにあふれたものばかり。
そこには誰かが誰かの健康や幸せを祈る、切なる思いが込められた小さな江戸玩具があります。

ほかのどこにも置いていない江戸の粋、ここでしか買えないものばかりが置いてある「助六」、浅草寺を参拝したら絶対に立ち寄りたいお店です。

 

 

writer 今井美枝子


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